2022年7月6日

月・火星での人工重力施設開発(京大・鹿島共同研究)―コアテクノロジー(核心技術)による縮小生態系の確立を目指す―

投稿者: space

概要

人類は現在、宇宙空間に「滞在」する時代から、月や火星で「生活」する時代へと移行しようとしています。

その実現には、どのような環境や施設が必要となるでしょうか。また、月や火星において、衣食住を可能にし、社会システムを構築するためには、どのような観点や技術が重要になるでしょうか。

京都大学(大学院総合生存学館SIC有人宇宙学研究センター)と鹿島建設株式会社(社長:天野裕正)は、大きく3つの構想を掲げ、これらの実現に向けた研究に着手することで合意いたしました。

 

ⅰ.月・火星での生活基盤となる人工重力居住施設「ルナグラス®・マーズグラス®」

ⅱ.宇宙に縮小生態系を移転するためのコンセプト「コアバイオーム」

ⅲ.惑星間を移動する人工重力交通システム「ヘキサトラック」

 

我々は、 “1Gは人類のアイデンティティ“との認識の下、人類の宇宙生活を支える、「ルナグラス・マーズグラス」、「コアバイオーム」、そして「ヘキサトラック」による人工重力ネットワークを提案いたします。

1.背景

宇宙生活が現実味を増すにつれ、月面等の低重力が問題視され始めました。そこで医学界を中心に世界的に人工重力が注目されてきています。そこで今回、世界に先駆けて、宇宙開発の核心技術(コアテクノロジー)としての人工重力居住施設を中核に据えたコアバイオーム・コンセプトの共同研究を発表することといたしました。

2.研究の構想

本共同研究で掲げる、月・火星での生活に向けた3つの構想を説明します。

ⅰ.月・火星での生活基盤となる「人工重力居住施設 ルナグラス・マーズグラス」

人類が宇宙空間や、月、火星で生活する日は目前に迫っています。NASA(アメリカ航空宇宙局)は低重力を人類が宇宙で生活するための重要課題と位置付けていますが、低重力の研究は成人の身体の維持にとどまっており、子供の誕生や成長への影響はまだ研究されていません。重力がないと、哺乳類はうまく誕生できない可能性があります。また、誕生できても低重力では正常な発育が望めないでしょう。人が低重力下で成長したら、地球では自力で立てない体になります。そこで我々は、宇宙空間や月面、火星面において、回転による遠心力を利用し、地球環境同等の重力を発生できる「人工重力居住施設」が人類の宇宙進出におけるコアテクノロジー(核心技術)と捉えて提案します。普段は同施設で暮らし、仕事や研究、レジャーの時にだけ、月や火星ならではの低重力、宇宙空間での無重力を楽しむようにすればよいと考えます。同施設で生活することによって、人類は安心して子供を産み、いつでも地球に帰還できる身体の維持が可能となります。

ⅱ.宇宙に縮小生態系を移転するためのコンセプト「コアバイオーム」

これまでの宇宙移住計画は、人類が移住するための生存基盤である「空気」「水」「食料」「エネルギー」の確保のみに重点が置かれ、地球においてこれら生存基盤の拠り所である「自然資本」の移転にまで考えが至っていません。実際に地球外での生活を考えたとき、その天体環境にどのような形で自然資本を存在させ、衣食住を可能にし、宇宙社会を実現するかについて、現実的な数字を踏まえた計画を検討立案する必要があります。我々は21世紀後半に、人類が月・火星への移住を現実のものとするという未来を想定し、要素を抽出した地球生態系システムを「コアバイオーム複合体」と定義、まずは移住に必要な最低限のバイオーム「選定コアバイオーム」を特定します。同時に、それに必要な核心技術「コアテクノロジー」と社会基盤「コアソサエティ」の統合から、他の天体(移転環境と称する)への宇宙移住の基幹学問体系として確立すること、またこの学問体系を地球環境保全や人間社会の組織形成などへフィードバックすることも目指します。今回のプロジェクトにおいては、人工重力居住施設 ルナグラス・マーズグラス内においてミニコアバイオームを確立させることを一つの目標として計画を実施します。

 

ⅲ.惑星間を移動する人工重力交通システム「ヘキサトラック」(Hexagon Space Track System)

ヘキサトラックシステムは、長距離移動においても1Gを保つ地球・月・火星惑星間軌道交通システムです。月・火星での生活が現実となり、それぞれのコロニー(居住集団)が経済活動を行い、多くの人々がビジネスや観光で移動するようになる未来宇宙社会(コアソサエティ)において、長期間の移動時に低重力による健康影響を最小限とするための、鉄道システムを基本モジュールとした回転による人工重力交通機関です。

 

<各惑星の拠点駅 ルナステーション・マーズステーション・テラステーション>

月・火星・地球のゲートウエイは、それぞれの惑星を周回する無重力あるいは微小重力の衛星もしくは人工天体上に設置します。月面駅はルナステーションと称し、ゲートウエイ衛星を利用します。火星駅はマーズステーションと称し、火星の衛星フォボス上に設置します。地球駅は、テラステーションと称し、ISSの後継宇宙ステーションとします。

<スペースエクスプレス>

スペースエクスプレスは、新幹線の車両サイズ(長さ25m、幅3.4m、高さ4.5m)に収まり、かつ標準軌(1435mmのレール幅)での動力システムを持つ、6両編成の鉄道車両です。宇宙空間への射出時には、それぞれの車両がバーで連結され、直進性を保ちます。真空中で1気圧を保つため、気密性は確保されます。拠点駅につくと、それぞれ1両ずつ切り離されます。先頭車両と最後尾の車両にはそれぞれロケット噴出装置を設置、宇宙空間で「加速」し、それぞれの惑星の重力圏を脱出します。また、大気のある惑星では翼を広げ、揚力を利用します。月面上、火星上では、それぞれの拠点都市を結ぶ高速鉄道として運用されます。

 

<ヘキサカプセル ミニカプセル・ラージカプセル>

ヘキサカプセルは、六角形の形状をもつカプセルで、中心部分に対しては移動装置が準備されています。地球―月の移動に利用する小型のミニカプセル(半径15m)と、地球―火星 もしくは 月―火星の移動に利用するラージカプセル(半径30m)があります。ラージカプセルは外枠が繋がっていない構造をしており、各車両からの人の移動は放射状の中心軸を利用します。月―火星間の移動では1G (半径30m で、5.5 rpm)を保ちます。

 

<拠点駅への射出装置 レールランチャー>
月・火星から、拠点駅への列車の射出には、レールガン技術(リニアモーターカタパルト等での加速技術)を用います。最大射出速度が十分であれば、その後の加速は不要ですが、急加速による衝撃を避けるため、射出後、ロケットエンジンによる継続加速により各惑星の重力圏を脱出します。各惑星上では鉄道システムして稼働します。
拠点駅でヘキサカプセルに収容され、乗客は列車内に搭乗のまま長距離移動が可能となります。

 

← 拠点駅への射出装置

3.波及効果、今後の予定
本研究によって、低重力の問題点を含む宇宙生活の課題とその解決方法を広く世間に知っていただくとともに、地球環境の重要さの再認識を呼び起こすことで、地球外宇宙をも包含した持続可能な社会の構築に寄与できると考えています。今後は、具体的な人工重力施設が装置としてどのようにあるべきか、生態系をどこまで再現するべきか、人文的、法的、制度的にどのようなものが必要であるかを検討していく予定としております。

4.研究プロジェクトについて
本研究プロジェクトは、京都大学大学院総合生存学館SIC有人宇宙学研究センターと鹿島建設株式会社の共同研究として進行し、必要に応じてその他有識者の協力を得て進めてまいります。

<研究者のコメント>
火星移住に関して、アメリカやアラブ首長国連邦らが積極的な案を出しておりますが、我が国から全く独自のアイデアを発信してゆければと思います。ここ数年間の議論を通じて我々が今回提案するこの三本柱は、他の国の開発計画になく、かつ今後の人類の宇宙移住の実現を確実にする上でなくてはならない核心技術であることを確信しております。
(山敷庸亮 京都大学大学院総合生存学館SIC有人宇宙学研究センター長)

私が子供の頃直感した低重力の問題点が、宇宙生活が現実味を帯びてきた現在まさに問題視され始めています。
宇宙進出への分水嶺であるこのタイミングで、京都大学と人工重力居住施設の実現に向けた研究ができることを大変ありがたく思っております。この共同研究が人類にとって有意義なものとなるよう取り組んでまいります。
(大野琢也 鹿島建設株式会社技術研究所 上席研究員、京都大学大学院総合生存学館SIC有人宇宙学研究センター SIC特任准教授)

 

<記者会見の内容が掲載された記事一覧>

7月5日

関西テレビ:「人工重力」の研究スタート これで月に住むことができる? 京大と鹿島 「2050年には実現したい」
https://www.ktv.jp/news/articles/c3bcea8f_d790_4172_a677_717c340416e0.html
Youtube https://www.youtube.com/watch?v=TVQPAHPrdEo

共同通信:月や火星への移住に向け共同研究
https://nordot.app/916995673986777088

日本経済新聞:京大と鹿島、月や火星に住むための人工重力施設の実現に向けた共同研究に着手することで合意
https://www.nikkei.com/article/DGXZRSP635766_U2A700C2000000/

朝日新聞デジタル:銀河鉄道で月や火星へ、人工重力で生活も 京大と鹿島がイメージ発表
https://www.asahi.com/articles/ASQ7567CKQ75PLBJ005.html

産経新聞:遠心力で重力発生 月・火星への移住に向け共同研究 京大・鹿島
https://www.sankei.com/article/20220705-EPR2HTDOX5MQHPMMQVR3VTGPZA/

時事通信:月、火星居住に向け共同研究 人工重力施設など構想―京都大と鹿島
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022070501046&g=soc

 

7月6日

日刊工業新聞:月や火星に居住空間 京大・鹿島が共同研究
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00641783

建設通信新聞:世界に先駆け人工重力システム/人類の宇宙居住実現に向け/鹿島と京大が共同研究
https://www.kensetsunews.com/archives/714804

建通新聞:月や火星での人工重力施設を共同研究 鹿島と京大
https://www.kentsu.co.jp/webnews/view.asp?cd=220704590014&pub=1&su=1

NHK:月や火星に移住へ「重力」人工発生施設 京大と鹿島建設が研究
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220706/k10013703801000.html

ANNニュース(Youtube):月や火星への移住に向け…京大と鹿島が人工重力施設の共同研究
https://www.youtube.com/watch?v=9ArBsYvCPSg

航空新聞社:鹿島、月・火星「居住」に向け京大と人工重力施設研究
https://www.jwing.net/news/53883

マイナビニュース:京大と鹿島建設、月や火星での社会システム構築のための共同研究をスタート
https://news.mynavi.jp/techplus/article/20220706-2390872/

朝日新聞デジタル:月や火星で暮らせるかも 京大・鹿島構想、実現は22世紀以降
https://www.asahi.com/articles/DA3S15346751.html

 

<研究に関するお問い合わせ先>
山敷 庸亮(やましき ようすけ)
京都大学大学院総合生存学館・教授/SIC有人宇宙学研究センター長
E-mail:yamashiki.yosuke.3u@kyoto-u.ac.jp

<報道・取材に関するお問い合わせ先>
京都大学 総務部広報課国際広報室
E-mail:comms@mail2.adm.kyoto-u.ac.jp

鹿島建設株式会社 広報室報道グループ
TEL:03-6438-2557

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