趣旨・ご挨拶

SIC有人宇宙学研究センター長* 教授

山敷庸亮

Yosuke Alexandre Yamashiki

[宇宙社会の実現に向けて]

2021年現在、人類は次のターゲットである火星を目指し始めています。アメリカ・ロシア・中国、そしてこれからさまざまな国が「人が宇宙に向かう」有人宇宙を志しています。我が国もアルテミス計画への参加を表明し、新たに宇宙飛行士の募集が開始されました。我が国でも様々な宇宙関連のベンチャー企業が様々な取り組みを始めておりますが、SpaceX社が次の宇宙開発をリードするアメリカに比較するとずいぶんと水をあけられてしまっているのも事実です。SIC有人宇宙学研究センターは、大学院総合生存学館ソーシャルイノベーションセンター(SIC)の一つの領域として2020年10月に設立されたのち、参画企業の御支援を受けて昨年度より準備を始めましたが、我が国の宇宙ミッションを作り出した土井隆雄宇宙飛行士を特定教授として招聘し、JAXA、NASA、JAEA、鹿島建設、アクセンチュアの専門家を宇宙関連の専門家が集うネットワークを構築させていただくことができました。また土井隆雄宇宙飛行士の地上ミッションをサポートされた山崎直子宇宙飛行士にも特任准教授として活動をサポートいただいております。これらのメンバーの英知を集め、宇宙における人類の未来社会の構築を共に目指してゆきます。目標実現のために、「宇宙木材研究」「宇宙居住研究」「宇宙放射線影響研究」「宇宙教育研究」「宇宙・地球探査技術研究」の5つの研究領域について、それぞれ、住友林業、鹿島建設関西支社、アクセンチュア、三共精機・西部商工、DMG森精機の支援を受けて研究を進めてまいります。すべての研究目標の共通ゴールは「宇宙社会の創造」です。

この5つの研究の分類は、あまり他の宇宙関連研究機関ではみられないものであると考えております。例えば宇宙木材の利用というコンセプトは、土井隆雄特定教授と住友林業、そして農学研究科の仲村匡司教授・村田功二准教授らによる長年の共同研究から生まれたもので、実際に宇宙に向けた木造人工衛星の構築の他、減圧下における樹木育成実験など、テラフォーミングに向けた基幹技術の開発を行なっております。

宇宙居住研究においては、鹿島建設関西支社からの大野琢也SIC特定准教授らの発案による人工重力施設「Lunar Grass / Mars Grass」が本格的に実用化できるかどうかについて、様々な角度から検討を進めてゆく予定です。また同時に、稲谷SIC特任教授らによるムーンビレッジ構想や、そして私やNASAゴダード宇宙飛行センターのVladimir Airapetian特任教授らが進める太陽系外惑星探査とハビタビリティ評価についても遠い未来の人類を見据えて研究を進めてゆきます。同時に、宇宙社会構築のための宇宙における循環システムの構築をJAXAの稲富SIC特任教授のアドバイスのもと進めていただきます。

宇宙放射線影響研究においては、JAEAの佐藤達彦SIC特任教授によるPHITSやWASAVIESを利用した航空機被ばく評価や、アクセンチュアの関大吉連携研究員による太陽フレア・CME発生予測研究などを組み合わせて行きます。

また、実際に宇宙、特に火星での生活を考えた時、どのように一定規模のコミュニティによる宇宙社会が実現するかについて、現実的な数字を踏まえた計画が必要です。特に精神面・肉体面への影響のほか、長期間地球から隔離された条件でどのように社会を構築するまで生き残ってゆけるかについて、実際に検討してゆくことが必要です。この安定した宇宙社会の実現のための基幹技術が「人工重力」と「宇宙放射線防護」技術です。また、惑星上での酸素・食糧確保「植林」について真剣に精査しなければなりません。上の三つの研究分野は、すべてこの「火星での移住」に関わる技術的問題解決をゴールとして据えています。

宇宙教育研究においては、宇宙総合学研究ユニットと協力し、バイオスフィア2を用いたスペースキャンプ(SCB2)の継続的実施や、日本各地、特に飛騨天文台や屋久島における有人宇宙実習を実施していく予定です。

宇宙・地球探査技術研究においては、人工衛星データを用いた地球探査を水圏まで拡張し、またAI技術を利用した生物相判別技術などの開発を行なって行きます。そのためこの領域の研究はフィールド活動が非常に多くなりますが、これらの知見が将来の惑星探査に貢献できる点についての精査を含めて重要な技術であると考えております。

我々は、現在まだ実用化されていない技術を含めて、近未来、そして遠い未来に実現するべく「夢」を描き出し、それらを現実にすることを大きな目標とします。近未来の宇宙社会実現に向けて、初めは小さく、しかし諦めずに確実に前に進んでゆこうと思いますので、今後ともご支援のほどをよろしくお願い申し上げます。

(2021年6月22日)

*ソーシャルイノベーションセンター副センター長、ソーシャルイノベーションセンター有人宇宙学研究領域長

This post is also available in: English (英語)