国際教育セミナー・宇宙学セミナー「宇宙開発のこれからと日本」
京都大学吉田キャンパスの紫蘭会館稲盛ホールにて、京都大学大学院総合生存学館・SIC有人宇宙学研究センター・宇宙総合学研究ユニットの共催による国際教育セミナー・宇宙学セミナーが、2023年7月21日に開催されました。
今回はNASA アジア代表のGarvey McIntosh氏、及びINAMI Space Laboratory代表取締役の稲波紀明氏の2名をお招きし開催された。最初に山敷教授よりGarvey氏と稲波氏の紹介および大学院総合生存学館とSIC有人宇宙学研究センターについて紹介があった。
最初の登壇は、NASA アジア代表のGarvey McIntosh氏。
Garvey氏による公演はNASA本部の概要説明から始まり、米ソ冷戦時代に人類を最初に月に運んだアポロ計画やその後のスペースシャトル、国際宇宙ステーション(ISS)をはじめとする有人宇宙開発が国際協力のもとで進められてきた背景を解説した。
特に2022年はアメリカと日本の宇宙開発協力において非常に重要な年であった。日本の2030年までのISS運用延長公式参画に関する署名と、アルテミス計画における月中間基地「ゲートウェイ」のための実施取決め署名が結ばれたこと、バイデン大統領と岸田首相が日米宇宙協力関連展示を視察したことなどを取り上げながら、日米がこれまで非常に良好な関係のもとで宇宙開発を進めてきたことを示唆した。
NASAは今後ISSを基盤として月面着陸、ひいてはその先の火星探査、移住を見据えている。特に直近のアルテミス計画3では2025年の月面着陸を目指しており、これが成功すればアポロ計画以来、実に53年ぶりの快挙となる。
Garvey氏は、有色人種の女性が初めて宇宙飛行士に選出されたアルテミス計画の事例を混じえながら、今後一層宇宙開発にかかわる人々がますます多様になるであろう、と話した。宇宙開発が抱える諸課題の解決には国際協力が不可欠であり、京都大学の学生をはじめとする多くの専門家の知識、技術を集結する重要性を改めて強調した。
2023年2月のNASAビルネルソン長官の京都大学訪問に関する内容の紹介もあった。
続いて稲波氏は2005年にヴァージンギャランティック社の宇宙旅行に当選し、サラリーマンとして宇宙に旅立つ異色の立場から、多岐にわたる宇宙ビジネスの可能性を紹介した。
稲波氏が立ち上げた宇宙ベンチャーINAMI Space Laboratory株式会社では非宇宙分野と宇宙開発の架け橋となるようなサービスを提供している。「鰻重」を宇宙まで飛ばして「宇宙鰻重」という名前で売り出す非常にユニークなプロモーション活動を行なった事例の紹介もあった。
稲波氏は宇宙旅行に申し込んでからの日々が以前と比較して非常に有意義になった自身の経験から宇宙ビジネスに携わることが視野を広げる貴重な経験になることを強調した。無重力訓練によって得られる重力からの解放感や、宇宙旅行への期待からくる精神的な若返りなど、非日常的な体験は稲波氏の糧となっている。稲波氏の参加する宇宙旅行は早くて2023年内に実施される予定であり、今後の続報も非常に興味深い。
最後のディスカッションでは、稲波氏と山敷氏が会場のさまざまな疑問に答えた。また、稲波氏の障害者としての宇宙への挑戦と、義足であることを逆にアピールするファッション性で雑誌の紙面を飾ったエピソードが紹介された。稲波氏の著書「よくわかる宇宙ビジネス」の会場の五人への贈呈もあり、多数の参加者が応募した。また、山敷氏らが最近出版した「有人宇宙学―宇宙移住のための3つのコアコンセプト」の講演者への進呈もあった。
本セミナーの動画は公開されており、来場できなかった方は是非ご覧いただきたい。https://youtu.be/xTN0vAOmXAc