2024年1月22日

第7回 Global Moon Village Workshop Symposium 4日目

投稿者: space

4日目 鳥取でのコアバイオームセッション

 

12月10日、鳥取大学のArid Land Research Centerにて、第7回Global Moon Village Workshop&Symposium第4日目のレクチャーが開催されました。

まず、Arid Land Research Centerの辻本先生より、開演の挨拶がありました。辻本先生は挨拶の中で鳥取砂丘と研究施設の歴史について紹介されました。昔は海岸一帯が砂丘だったそうで、厳しい感想でも耐えられるらっきょうの栽培が盛んでした。現在では、植林などの研究活動によりその面積を大きく縮小することに成功し、研究施設の移動をしなければいけないほどだったとおっしゃっていました。次に、MVA副総裁のJohn Mankins氏より、MVAのシンポジウムを鳥取で行えることの感謝が述べられました。Mankins氏は何回も来日されているそうですが、鳥取に訪れるのは初めてだそうで、「星取県」である鳥取で講演が開催できて光栄だとおっしゃられていました。次に、Amulapoの田中克明さまより、鳥取砂丘でのアクティビティの紹介がありました。鳥取砂丘は、その砂の形状や砂丘の起伏が月面のレゴリスに似ていると科学的にも証明されているそうです。実際、鳥取砂丘には「ルナテラス」という施設があり、そこでは鳥取砂丘の地面上で、作成したローバーの試運転をすることができます。また、Amulapoでは、ARを駆使した体験を提供しており、鳥取砂丘を月面と見立てたさまざまなミッションを体験できるアクティビティの紹介がありました。

 

続いて、CO-HOSTの一人として、山敷センター長による本「コアバイオーム」セッションの導入紹介がありました。本セッションでは、宇宙移住のための三つのコアコンセプトである「コアバイオーム・コアテクノロジー・コアソサエティ」の中で、特にコアバイオームに焦点をあて、前半ではその中でも海洋バイオーム、すなわち「コアオーシャン」について、後半では森林や土壌、すなわち「コアフォレスト」についての焦点をあてる話、そして、惑星全体をテラフォーミングするのではなく、惑星の一部に地球環境をつくる「テラウインドウズ」構想についての説明がありました。

コアバイオームセッションは、アリゾナ大学Biosphere2のJohn Adams先生による、Biosphere2の紹介と課題についての講演から始まりました(ビデオ)。Biosphere2は地上の生態系を集約させた施設であり、そのような閉鎖的生態系においてヒトが集団生活できるのかが検証されているそうです。Adams先生は例として一つの実験結果を提示されました。3人の被験者がBiosphere2で生活できるか検証したところ、被験者3人は常に低栄養となり、大体の時間を農業に使うようになったそうです。また、被験者がBiosphere2に入ってすぐに酸素濃度が低下し始め、14%まで低下したことも示されました。この対策のため、二酸化炭素を吸着する水酸化カルシウムの導入が講じられたことや、Lung施設によって温度や湿度を保つことの重要性を話されていました。最後にBiosphere2の海洋バイオームにおけるサンゴ養殖の現在の課題について紹介されていました。

次に、京都大学舞鶴水産実験所の益田所長から、海の生態系の脆さと回復力の高さについて説明がありました。益田教授はよく舞鶴海岸沿いで潜られているようで、舞鶴海岸沿いでの観測結果についてお話しされました。クロダイ・メジナ・クツワハゼの個体数は増加している一方で、アイナメなど冷たい海に住む魚種で個体数低下していることや、海藻の減少と海藻をよく食べる魚種の侵入により海藻に住む魚種が減少していることが観測されているそうです。海底の平均水温が少しずつ上昇しているなどの環境変化が原因だと話されていました。また、環境変化によりブリ・クロボシフエダイや海藻のcenter of distribution(COD)の緯度が上がってきている一方で、benthosのCODは下がってきていることを示されました。次に、海洋生態系の脆さと回復力の高さについてお話しされました。具体的には、原発あたりの海の生態系は地震前後で大きく変わり、CODも大きく変化したと言います。また、津波後の海の生態系について長期に渡り定期的に観測し続け、最初は死んだ魚がたくさん海底に沈んでいたが、そのうち海藻、小魚が再来し、次に大きな魚が再来して、およそ2年で生態系が復活したことが分かりました。これらの観測結果は、海洋生態系の脆さと回復力の高さを示しています。

次に、東京海洋大学の遠藤准教授より、ティラピアの宇宙養殖の可能性について講演がありました。宇宙で持続的に生活していくためには、リサイクルによって食物の無駄を減らすことが重要です。遠藤教授は、宇宙でのタンパク源としてティラピアを選択し、ティラピアの食糧としてクロレラを用いるモデルを発表されました。クロレラはティラピアの排泄物で増殖するので、うまく循環するようになっています。また、海産物の養殖に水草を導入することで、水草による水質浄化も期待されるとおっしゃっていました。次に、ティラピアの微小重力下での泳ぎ方・摂餌方法の変化についてお話しされました。ティラピアは数μGほどの微小重力になるとぐるぐる回転してしまってうまく摂餌できなくなります。また、赤外線下でもぐるぐる回転してしまってうまく摂餌できなくなります。つまり、うまく食事するためには、可視光と重力が大事だということです。閾値を調べたところ、0.1G以上の微小重力であればティラピアは生き延び、繁殖することが可能ということがわかったそうです。月は1/6Gなので、ティラピアを月面で育成することは可能だとお話しされていました。

次に、JAXAの桜井正人教授より、ISS内部構造とECLSSの紹介がありました。 ISSにはCO2除去・ニオイ除去などさまざまな装置が各所に存在していることや、二酸化炭素除去の仕組み(サバチエ反応)などをお話しされ、次に湿度管理や水の確保についてで、尿から水を産生する仕組みなどを簡単に説明されていました。また、リサイクルすることでMassの増加量を抑えられるため、長期ミッションにおいては特にリサイクルが大事であるとお話しされました。ECLSSのリサイクル率は改善されてきており、GatewayのiHABでも用いられる予定だとおっしゃられていました。

次に、AquaNaut・JAUSの藤永さまが潜水服姿で登壇され、「Simulated Moon Exploration Recreation Program Underwater」という新設のPADIコースについての説明をされました。 ダイビングと宇宙遊泳は類似点が多く(ダイビング中は0 Gに感じるなど)、月面の類似体験としてのダイビングの可能性について述べられていました。

次に、京都大学の市村氏による、宇宙空間における物質循環の確立の重要性や、ISSにおけるリサイクルシステムの現状評価、人類の宇宙進出に向けた課題についての講演がありました(ビデオ)。今のリサイクルシステムはマイナス面も無駄も多く、持続可能に居住できる可能性は担保されていません。また、月に行くためにはISSで生活するために必要なコストの約10倍のコストが必要だという概算があります。このためにも、リサイクルシステムの改善は非常に重要だとおっしゃっていました。現在のところ、空気・水のリサイクル率は上昇していますが、衣食住に関してはまだまだリサイクル率が低迷しているところだそうです。服に関しては着替えない方がリサイクル率は上がりますが、その代わりQOLが低下します。Life Support System(LSS)に関しては改善がみられていますが、QOL面が保証しきれていないのが現在の状況です。

 

午前の部の最後に、John Mankins先生より、”PromoMoon”についての宣伝がありました。PromoMoonは、月面への人類移住に貢献すると考えられるアイデアを募り、当選すれば実際にMoon Village Associationの方々と開発を進めていくことができる、という企画です。

 

昼食はルナテラスで取りました。ルナテラスでは火星ローバー開発を行う学生団体CARURAとARESが自団体の説明とローバー走行を実演されました。

 

午後の部は、乾燥地や海岸での生態系や炭素循環・温室効果ガスの循環・地球温暖化について研究していらっしゃる寺本教授による講演から始まりました。まず、炭素循環についての説明があり、特にmarginal landでの炭素循環を理解することは現在の気候変動の観点からのみならず、将来地球外で生態系を構築する際にも重要となるとおっしゃっていました。炭素循環の中で特に大切なのがSoil Respirationです。Soil RespirationはRoot Respiration(根から呼吸により排出されたCO2)とHeterotrophic Respiration(地中に存在する細菌叢によって地中の有機炭素をから産生されたCO2)の総和です。Soil Respirationは68 ~ 109 GtC / yearで非常に大きく、気候変動を理解する上で重要だと考えられます。しかし、乾燥地でのSoil Respirationの観測データは少ないため、寺本教授はモンゴルで観測を行い、closed chamberを用いて実験を行いました。結果、2地点では、家畜により草がなくなった方の土地でSoil Respirationが減少しましたが、1地点ではコントロールと草がなくなった土地とでSoil Respirationの差がなかったため、更なる精査が必要、ということです。

次に、鳥取大学の黒田准教授より、コンクリート建築の弱点について講演がありました。建物が劣化する原因として、carbonation, salt attack, frost damage, chemical attack, alkali silica reactionの4つがます。これらの劣化からコンクリートを守る方法としてcathodic protectionがありますが、alkali silica reactive aggregateがある場合、cathodic protectionは劣化を加速させてしまいます。研究を行ったところ、cathodic protectionを行う前に高い電流密度の電流を流すことでalkali silica reactionによる劣化を防ぐ可能性があることがわかりました。

※alkali silica reactionとは、コンクリート内のアルカリとalkali silica reactive aggregateが反応することでAlkali silica gelができて、Alkali silica gelが水を吸収することで膨張し、コンクリートがひび割れる現象。

次に、鳥取大学の谷口教授より、乾燥地帯での微生物についての講演がありました。まず高度な乾燥地でも生物が存在することや乾燥の程度によってそこに住まう微生物も異なってくることを説明されました。次に、地中の微生物と植物の関係について説明されました。植物が放出したlittersやroot exudatesは地中の微生物により分解され、栄養素になります。特に根の周辺にいる微生物はRhizosphere microbesと呼ばれ、窒素固定や栄養素への分解を行います。これにより栄養素は地中にストックされるか、あるいは根の中に存在するEndophytic microbesによって吸収されます。Rhizosphereでは多湿低温であり、乾燥地でもRhizosphereは微生物にとって生存しやすい環境であると言えます。また、Endophytic microbesの内訳は環境によって生存に有利になるように変わります。例えば、夏には乾燥に耐えるため乾燥に強いカビの一種が優位になります。乾燥地帯での土壌環境と土壌の微生物と植物の関係性を理解することで、月面での農業に活かせるかもしれません。次に、砂漠化についてです。一旦砂漠化してしまうと、復活はできません。そこで一旦砂漠化してしまった土地にカビの一種が入った土壌を移植すると土壌の栄養状態が回復しました。つまり、微生物を土壌に加えること(microbial inoculation)は土壌の回復に効果的だということです。現在、どの微生物をどのような割合で混ぜるのが最も効果的か研究しているところだそうです。

最後に、CRRAの村木CEOより、ECLSSのCO2除去システム開発に向けた教育用小型DACデバイスの開発と、DACデバイスの普及により二酸化炭素の総量を削減する低コスト・高性能化によるCCUSの認知度向上の試みについて紹介がありました。

その後、外国から来てくださった方々には鳥取砂丘の馬の背エリアや、砂の美術館を訪れていただきました。その後、砂丘センターで閉会のお食事会が開かれました。砂丘センターでは麒麟獅子の舞も鑑賞することができました。

 

鳥取アウトリーチイベント

 

砂丘センターにて、日本人向けにアウトリーチイベントが開催されました。

まず、INAMI Space Laboratory CEOの稲波氏より、鳥取県の白兎神社にちなんだ宇宙ビジネスの可能性について講演がありました。

稲波氏には白兎神社でお参りすると事業が成功するというジンクスがあるらしく、月面での精神面での支えになる、ということで月面に白兎神社にちなんだ神社を建てるという奇抜な構想を発表されました。また、白兎神社は縁結びの神社としても有名で、その月面に建てた神社を縁結びの神社としても機能させようという構想や、地上からオンラインでお賽銭ができるシステムを構築するという構想など、実に様々なビジネスの可能性を示唆されました。最後に、稲波氏が現在取り組んでおられる、月面にメッセージを送信するというビジネスについて、宣伝がありました。

次に、コスモ女子の塔本氏より、コスモ女子での活動について講演がありました。初めに、コスモ女子設立のきっかけについて、宇宙業界では男性が多く、現在の社長が働きづらさを感じたのが設立の動機だったとの説明がありました。その次にコスモ女子での活動についての紹介がありました。コスモ女子は定期的に勉強会などを開いているだけではなく、各々が「部」に所属し、やりたいことを追求するというスタイルだそうです。最後に、コスモ女子の鳥取支部を作りたい、という話になりましたが、会場の参加者の中から鳥取支部部長を募ったところすぐに手が上がり、会場は大盛り上がりを見せました。

次に、WARPSPACE USAの森氏より、WARPSPACEの事業概要についての簡単に説明がありました。現在運用されている通信衛星よりも高い高度で周回させることで、より広い範囲をカバーしようというものでした。また、より速い通信を実現するため、レーザーを用いた通信も開発しているそうです。また、月や火星など宇宙に進出していく上で、通信円滑化は非常に重要であるため、このような開発を続けているのだという話もされていました。

次に鹿島建設の大野氏より、人工重力施設のお話がありました。幼少期より、「宇宙に行ってしまったら地球には戻れない体になる、それは人類の分断だ」ということで人工重力施設についてずっと考えられていたそうです。また、月面で1Gを実現する「ルナグラス」や、火星面で1Gを実現する「マーズグラス」、ルナグラス間をつなぐ交通手段の構想などを軽く説明されていました。

前半の講演が終わったところで、「宇宙タレント」という職業を自ら作られ、宇宙好きYoutuberとして活躍中の黒田有彩氏にご登場いただき、稲波・塔本・森・大野氏と共にディスカッションを行いました。宇宙に興味を持ったきっかけや宇宙開発のこれからについて楽しく議論を交わされていました。

 

後半は山敷教授の司会のもとJAXAの三浦准教授、amulapoの田中さま、鳥取県産業未来創造課の井田氏の自己紹介がありました。三浦先生はロケットのエンジンについて研究されており、昨今起こった爆発事件で苦労されているとの笑い話もされていました。井田氏は「星取県」の名付け親であり、地域おこしの実際や苦労話を面白く話されていました。最後に、再び宇宙タレントの黒田有彩氏を交えて、全員でディスカッションを行いました。

アウトリーチイベントの締めくくりの際には、因幡・但馬の伝統芸能である麒麟獅子の舞を披露していただきました。

その後、有志の方々に限り、鳥取砂丘こどもの国にて、amulapoさまの「月面極地探査実験A」の体験がありました。

なお、鳥取でのシンポジウムとアウトリーチの様子は、「宇宙タレント 黒田有彩 ウーチュー部」に掲載されていますので、ぜひご覧ください。

「【鳥取1日旅】国際的な学会に潜入したら 宇宙を感じて凄すぎた!【月面】 https://www.youtube.com/watch?v=F95e6oNGpKo 」

(白樫聖夢・清水海羽)