大学コンソーシアム京都「京カレッジリカレント教育プログラム」 前期プログラムのまとめ
大学コンソーシアム京都「京カレッジリカレント教育プログラム」
前期プログラムのまとめ
大学コンソーシアム京都「京カレッジリカレント教育プログラム」現代の教養講座「宇宙移住に向けた最先端研究と企業技術」前半プログラムは、6月1日に第1回「宇宙移住のためのコアバイオームコンセプト(山敷庸亮)」をスタートに、連続講義が開始されました。
6月15日、第2回は鹿島建設の大野琢也氏による「恒久的な宇宙居住に向けた人工重力施設研究」でした。
近年盛り上がりを見せている「アルテミス計画」などからもうかがわれるように、人類が月や火星に進出し、月や火星で恒久的に暮らす、そんな未来はそう遠くないと考えられます。そこで考えられる課題の一つとして、低重力が挙げられます。低重力下では筋力が低下したり、骨密度が低下したり、ストレスにより免疫力が低下したりすると言われているようです。このような個体上の問題だけでなく、世代間の問題として、低重力下では受精卵の着床がうまくいかないということも言われています。
大野氏の「1Gは地球のアイデンティティだ」という印象的な言葉からもうかがえるように、私たちの体は進化上1Gに適応してしまっているのです。
このような低重力問題の解決方法として大野氏が発案したのが、「ルナグラス・マースグラス」のような惑星表面での人工重力施設です。この施設では、回転によって生まれる遠心力を利用して、惑星上で1Gを生み出します。ある点で1Gを実現しようとすると建物全体はグラス状になります。
また、このグラス状建築の中には宇宙放射線防御と人々の心を癒す役割として水を張る考えもお話しされていました。グラス間をつなぐ交通機関ルナビークルなど細部までも考えていらっしゃって、建築資材さえあれば本当に実現・適用可能なのだろうなと心から思わされる構想でした。
6月29日、現代の教養講座「宇宙移住に向けた最先端研究と企業技術」第3回はJAXAの稲谷芳文教授による「ムーンビレッジ・月に社会を作ることを考える」でした。
人類が宇宙に進出していく上で、地球に最も近い天体である月で持続的な人類の活動が行われることがまず第一歩となるでしょう。月で人類が持続的な活動を始め、これが発展して社会とでも言う集団を構成していく時、これを作り、運営するためにはどういうことを考えておいたらよいでしょうか?ということが研究の動機です。
多くの考えるべきことがありますが、月面で人類が生活するための物質やエネルギの調達や輸送などという技術的な考察にとどまらず、持続的な活動のためには月で何の活動をして価値を生み出していくかと言う視点が大事です。一般に宇宙の仕事には大きな投資が必要ですが、従来の宇宙開発のように国家の事業として行うのでは、いろんな意味で限界があると言われており、経済活動や事業のリターンという観点で、月での活動が産み出す価値について考えるべきであると言う指摘がなされています。これは宇宙ビジネスの視点です。またこのような大勢の人間が活動するときの社会運営の方法や宇宙滞在における人体影響という視点からはじめ、いわゆる宇宙での持続的滞在が常態化したときの、社会の構成員としての人類の、環境適合の課題から世代交代や人口構成などと言う社会科学的および文化人類学的な視点で有人宇宙活動の未来を考えよう、という大きな視点からお話しされていました。
有人宇宙活動は人類の活動範囲の拡大という文脈で語られますが、究極的には地球や太陽系が人類の生存に適さなくなったときの人類のサバイバルの視点で考えるべきでしょう。この文脈において、月に社会を作ることはまさにその手始めとしてよい実験の環境を提供するのである、との文脈で様々な議論が交わされました。
7月13日、現代の教養講座「宇宙移住に向けた最先端研究と企業技術」第4回は慶應義塾大学の青木節子教授による「宇宙移住に関する国際宇宙法」でした。
人間が月や火星に宇宙移住した場合、その基地はどこの国が管轄権を有するのでしょうか。基地で犯罪が起こった場合、その犯罪者はどの国の法律でどのように裁かれるのでしょうか。自由競争に基づく国や企業の宇宙資源採取は合法でしょうか。
現在存在する国際宇宙法に「月協定」が存在しますが、この協定に批准している国は少数(たったの18カ国。しかも、サウジアラビアは2024年には脱退が認められており、17ヵ国となる予定)であると仰っていましたが、世界が1つの「地球人」として宇宙に進出していく未来は、法的な視点から見れば少し遠いのかもしれないと感じざるにはいられませんでした(この他にも宇宙条約があり、こちらの批准国は102カ国です)。
このような条約は国連宇宙平和利用委員会(COPUOS)などの機関により形成途上にあります。国連宇宙空間平和利用委員会では、あらゆる宇宙活動について、各国の合意を時間をかけて醸成しつつ国際宇宙法が形成され続けているのがうかがわれます。
7月27日、現代の教養講座「宇宙移住に向けた最先端研究と企業技術」第5回は京都大学の寺田昌弘特定准教授による「宇宙環境での人への影響 -将来の宇宙移住を目指して-」でした。
近年、宇宙飛行士だけでなく民間人も宇宙に滞在する機会が増えていますが、宇宙空間は微小重力・無重力であり、尚且つ宇宙放射線も降り注いできます。また、宇宙船は閉鎖的な空間であり、今の私たちの生活とは大きく異なった特殊な環境であるといえます。これら特殊環境は人体にどのような影響を及ぼすのかが今回の論点でした。
微小重力・無重力の影響として挙げられるのが、体液の循環不全や筋力低下、骨密度の低下、胸腺萎縮による免疫低下などです。第2回で大野氏が仰っていた通り、個体レベルの問題だけでなく、世代間の問題として受精卵が着床しない、胎児の脊髄形成不全なども生じると言われています。宇宙放射線の影響として挙げられるのは、DNA損傷による発がんリスクの上昇、免疫細胞の減少による免疫低下などです。また、閉鎖的空間は、精神面への影響が大きく、人同士の喧嘩が勃発しやすくなったりするようです。
これらを防ぐためにも第2回で大野氏が仰っていたような人工重力施設、宇宙放射線遮断システムや、開放的な空間を持った基地の建設などが求められると考えられます。
前期プログラムはこれで終了ですが、後期プログラムは10月5日より、佐々木氏(京都大学大学院理学研究科)、村田氏(京都大学大学院農学研究科)、稲富氏(JAXA)、遠藤氏(東京海洋大学)そして山敷氏(京都大学大学院総合生存学館)による続編が続きます。
プログラムの詳細は以下のようになっております。
PDFはこちら
後半プログラムへの申し込みは以下のリンクから可能です(9月5日締め切り)。https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScebHrDdSyZQqKQcTTWwQTVuM8qc9Rk_mI4SzMtguVmlaaVXg/viewform
大学コンソーシアム京都 リカレント教育プログラム紹介サイト:
https://www.consortium.or.jp/project/sg/recurrent