2024年12月26日

記者会見報告

投稿者: space

令和6年12月18日(水曜日)、京都大学と鹿島建設との共同研究について、京都大学百周年記念館 国際交流ホールIII にて記者会見をとり行いました。

記者会見 集合写真撮影の様子

 

発表会の司会は、山敷庸亮  京都大学大学院総合生存学館 教授(専攻長・SIC有人宇宙学センター長)が行いました。

 

まず、大浜大 鹿島建設株式会社 イノベーション室長によるプロジェクト紹介で、今回記者会見を行うに至った経緯と、これまでに鹿島建設と京都大学が行ってきた共同研究についての成果を示しました。

 

大浜大 鹿島建設株式会社 イノベーション室長

2022年度にも、鹿島建設との共同研究について記者会見を行い、宇宙居住に必要な3つのコアコンセプト「人工重力居住施設」「コアバイオーム」「人工重力交通システム」に対する基本的な概念の構築を研究すると宣言しました。今回は、概念検証からさらに踏み込み、具体的に実現するために、人工重力居住施設の構造成立性・施工成立性・居住性・人体への影響評価・閉鎖生態系の確立を研究することを公表しました。

 

次に山敷庸亮  京都大学大学院総合生存学館教授によるプロジェクトおよび経緯紹介を行いました。

山敷庸亮 大学院総合生存学館 教授

生存基盤がない宇宙環境で社会を築くためには、地球から小規模に資源を持ち込み、現地で循環型システムを構築する必要があります。長期的に宇宙で暮らすためには空気や水の循環システムと適切な重力そして宇宙放射線からの防護が必要となってきます。空気や水の循環システムを実現するため、植物やバクテリアを利用した閉鎖生態系の研究が進行中です。これにより、酸素供給や資源の循環を効率化し、宇宙での長期的な生活を支える基盤を整えます。

 

地上では、自然資本(海、陸、森など)の上に生存基盤が成り立ち、その上に社会が成り立っています。私たちは、宇宙での暮らしを実現するためには、地上と同じように自然資本が必要不可欠であると考えました。しかし、月や火星にはバイオームが存在しません。そのため、地球から必要最低限のバイオーム「コアバイオーム」を持参する必要があると考えています。また、長期的な宇宙居住を実現するためには、QOLの維持や、資源循環促進システム、低重力と宇宙放射線への対策が必要です。

「コアバイオーム」については、これまですでに構想を発表している「宇宙森林」「宇宙海洋」に加え、コアバイオームから発展させた「ECLSSコアバイオーム」も構築していく考えです。ECLSSコアバイオームは、シアノバクテリアからの酸素供給など、生命維持のために生物の力を借りようとする考えです。閉鎖生態系の維持についてはBiosphere 2と共同研究を行っています。閉鎖的環境かつ限られた資源の中でやりくりするための技術を研究することで、地上での資源・環境を保全する技術も発展することが期待されます。

低重力への対策として、鹿島建設の大野琢也氏が、グラス状の建物を回転させることで、遠心力と重力との合力により、地球外で地球と同じ1G下で暮らすことを実現する「月面人工重力居住施設(ルナグラス)」を発案しました。概念検証を経て、人工重力居住施設は常に進化を遂げてきました。今回発表する新しいポイントは、アクティブ制御です。アクティブ制御は、回転軸が不安定になった時に作動し、安定に戻すシステムのことです。さらに、地上でも過重力施設「ジオグラス」を建設し、建設の実現性を確認します。「ジオグラス」は、将来的にスペースポート(宇宙への港)の近くに建設する予定です。月・火星に行く人が、行く前に人工重力居住施設を体験してから月・火星に行けるようにするためです。スペースポートからはヘキサトラックという、人工重力技術を用いた月・地球・火星間の交通機関が発射する構想です。

宇宙放射線への対策として、建築材料・建物の厚みをどれくらいにすれば宇宙放射線を防ぐことができるか、シミュレーターを用いて研究中です。現在は、ルナグラスやヘキサトラックの外壁を海で満たす予定です。

これから我々は、これらの構想について、鹿島建設と共同して人工重力居住施設の構造成立性・施工成立性・居住性・人体への影響評価を研究していきます。

 

京都大学側研究体制

  • 月面人工重力居住施設(ルナグラス)について〜背景、仕組、構想〜

 

次に、大野琢也 鹿島建設株式会社 イノベーション室 宇宙担当部長による、ルナグラスの詳細な解説がありました。

大野琢也 鹿島建設株式会社 イノベーション室 宇宙担当部長

宇宙で定住して体が適応してしまうと地球重力下で暮らせなくなり分断につながる恐れがあります、例えば定住を始めた第二世代以降の人は自分の意志に関わらず過酷な宇宙環境の中で暮らすことになり地球重力に耐えられないため地球にも帰られないということが起こります。こういった分断を未然に防ぐためにも宇宙でも地球と同じ重力を再現することが必要です。放物線の回転体が適正回転においてすべての面に対して垂直に立てることを利用して宇宙環境中に人工的に重力を発生させる設備を考えています。

 

京都大学研究チームからの報告

 

寺田昌弘 大学院理学研究科 特定准教授

寺田昌弘 大学院理学研究科 特定准教授

人工重力施設における重力変化による人への影響を医学的側面から評価を担当しています。地球重力下で進化した生物にとって重力刺激は非常に重要な刺激となっています。重力による影響を利用した生物の仕組みは宇宙環境下においておおきな影響を受けます。そのため、重力変化を医学的視点からの情報収集、安全性評価を整えること、過重力負荷時の安全性の評価と基準の設定を主な検討課題としています。また将来的な課題として宇宙放射線からの防御、閉鎖空間における精神的影響、長期重力変化による生理的影響の評価、低・過重力環境における行動様式の変化を考えております。

今後の検討の流れとして、検討課題を進めながら試作遠心装置における安全性の評価過重力装置における効果的トレーニング方法を提案し人工重力装置を用いた宇宙居住時における医学面への影響を明らかにしていきたいと考えています。

 

山上路生 防災研究所 教授

山上路生 防災研究所 教授

京都大学防災研究所宇治川オープンラボラトリーに回転実験模型を設置し、模型を用いた水理実験によって、水流の挙動、熱の移動など回転系独自の課題について検証する予定です。

卓上実験の結果としては回転を始めてからしばらくすると回転体の視点から見て静止しましたが噴流実験を行ったところ静止時とは異なりでは対称にはならないことが確認できました。

今後はより大きな規模で熱やガスなど要素を加えながらより現実に近い形で実験していき気相と液相の交換についても評価していきたいと考えています。

 

金多隆 大学院工学研究科 教授

金多隆 大学院工学研究科 教授

宇宙での建築は、地球上での施工とは大きく異なる課題を伴います。特に無重力または低重力環境での建設作業では、従来の技術だけでは対応が難しい部分が多く存在します。宇宙建築の施工可能性について考察しています。

地上と同様に地面を掘り基礎を作るころが必要になります。仮設工事について工事を請け負う人たちの滞在施設を確保する必要が出てきます。そののちに地上の骨組みを作るのですがルナグラスの特殊な3次元の曲面をどのように分割作っていくかが課題で現在のところでは鉄骨構造をメインに必要なところにはコンクリートで補強する方式を考えています。曲面は鉄のプレート溶接することになりますが人の手で行うには大きすぎるため機械で溶接していくことになります。折りたたんだ蛇腹になったものを引き上げていくような折り紙の方法で考えている。

次に設備工事をしていきます。ここでは人間の今の生活環境をどこまで宇宙に持ち込むかによって工事も変わってきます。改修工事なども考慮に入れる必要も出てきます。

工事の際、施工のための機材は酸素がない環境のためディーゼルではなく電力で動くものを使うことになるのですが必要となる電力をどのように確保するかが重要な課題です。

また電力、水、空気の浄化や温度管理について、また足場を作らないで引っ張り上げる方式をとり工事を省略化しますがどれほどの機材が必要になってくるかも検討する必要があります。

 

佐々木貴教 大学院理学研究科 助教授

佐々木貴教 大学院理学研究科 助教授

過重力施設で力がどのように働くか、また流体がどのような動き方をするかシミュレーションしています。特にコリオリ力が非常に複雑働きをするためシミュレーションが必要になってきます。

施設が身長に対して小さいと頭と足でかかる重力の差が大きくなってしまうためある程度以上の大きさが必要となってきます。またコリオリ力と遠心力と重力が合わさりものの動き方に応じて異なった向きに力がかかります人間が動く際も同様のことが起こるためこの影響をどのように減らしていくかが重要な課題です。

工学的・建築上の点からに建築可能な大きさあるという建築学的な制約と人の動きに対して働く影響という物理学的な制約を比較することで過重力施設ルナグラスの実現可能性を追い求めていきたいと考えています。

 

山敷庸亮 大学院総合生存学館教授

 

魚をそだてるためには酸素が必要となってくるが、サンゴや海藻などによって酸素を作るためには適切な環境を維持し続ける必要がある

ヘキサトラック構想では、人工重力を用いた惑星間の移動を考えているが、特に月面においては、ロケットとレールランチャーを組み合わせる射出方法が効率的になると考えている。

 

 

会場の様子

 

人工重力施設 模型の様子

 

記者会見時の記事はこちら

月面人工重力居住施設の成立性を京都大学と鹿島が共同研究―人工重力居住施設の実現へ向けた第一歩―

 


京都大学鹿島建設共同研究記者会見

日時 令和6年12月18日(水曜日)

場所 京都大学百周年記念館 国際交流ホール3

 

式次第

 

司会 山敷庸亮  京都大学大学院総合生存学館 教授 専攻長

SIC有人宇宙学センター長

(ソーシャルイノベーションセンター(SIC)有人宇宙学領域長)

 

<挨拶>

大浜 大 鹿島建設株式会社 イノベーション室長

 

<プロジェクト紹介>

山敷庸亮 京都大学大学院総合生存学館 教授 専攻長

三つのコアコンセプト・テラウインドウ・共同研究の中味

大野 琢也  鹿島建設株式会社 イノベーション室 宇宙担当部長

ルナグラス紹介

 

<研究内容報告>

寺田昌弘 大学院理学研究科 特定准教授

山上路生 防災研究所教授

金多隆 大学院工学研究科 教授

佐々木貴教 学院理学研究科 助教

山敷庸亮 大学院綜合生存学館 教授

 

質疑応答

 

研究室訪問